ひとこまの向こう側にて。

ひとこま絵日記を描いているアシダのブログ

娘よ、ひたいの傷を見て悟れ

鯖寿司

私の父は、ちびまる子ちゃんの父ヒロシに似ている節がある。
お酒を飲めばご機嫌で楽観的。休みの日ともなれば、昼間から焼酎ばかり飲んでテレビにずっと話しかけているような人。
酔うと喋り方も、あんなかんじだ。

どうしようもない父


そんな父も、昔はお酒を飲むと荒れていた。
私が中学生くらいの頃だろうか、飲んでは母と口論になり、私達3兄弟の子どもに怒鳴り散らし、ひどい時はテーブルをひっくり返してお皿のご飯が部屋中に飛び散ったことがあった。割れた食器の破片が壁に刺さりまくっていたのを、今もなんとなく覚えている。

当時大学生の兄がバイトで稼いだお金で新しい服を買った時、父が勝手に兄の許可無くその服を着て飲み屋に行き、タバコと揚げ物の匂いを散々染みつけてヨレヨレにして帰って来たことがあった。

兄は、汗水流して稼いだお金で買った服が、そんな残念な姿になり父に対して激怒していたが、父はなぜかその激怒を上回るほど逆ギレして、また怒鳴り散らして暴れていた。

こんなどうしようもないエピソードが他にも山ほどあり、ここでは書ききれない。

私はこんな父を好きになれなくて、家の中では口をきくこともなく、私の方から話しかけることも滅多と無かった。

目を合わすことも、ない。

この冷戦状態は私が小学校5年生から社会人になって27歳くらいまでずっと続いていて、もはや反抗期と呼べるレベルではなく、父と私との間の空気はずっと穏やかではなかった。

でも、孫が増え、父の中でいろんな協調性を身につけてきたのか、今の父は昔の荒れていた時期とは別人のように丸く穏やかになっている。

娘には良い酒を


今は家に父と母の二人だけで住んでいて、兄と姉は既に結婚して別居しており、私も28歳で二度目の一人暮らしを始めることになって家を出た。

「ご飯作ったから食べに帰っておいで」と、母親にご飯で釣られた時しか私は実家に帰らなくなった。一年に、2〜3回あるかどうかくらい。

それでも、私がたまに実家に帰るときは、いつも父が焼酎の一升瓶を私のために買ってくれている。

父本人はそれに対して何も言わず、ただテーブルの上にそれがドンっと置かれていて、母が「あんたが帰ってくるから、お父さん芋の焼酎買ってくれてるで」と私に伝えるだけ。

晩御飯が始まり、はじめ私はビールを飲んでいるが、二杯目からは焼酎に切り替えるルーチーンがほぼ確立されているので、グラスのビールが無くなったところでテーブルに置かれている焼酎の瓶に手を伸ばす。

「父さん、もらうで」と一言だけ言ってから氷と水でカチャカチャ混ぜて飲むが、父は「ほう」と返事をするだけで特に味の感想も聞いてこない。

父は普段「業務用かよ」とツッコミたくなるような、デカいペットボトルやパック売りの水のように薄い安酒ばかり好んで飲んでいる人だ。
でも、こうして私が帰るときだけ、瓶に入った少し高価な芋焼酎が我が家に登場する。
父自身は、麦派だというのに。

ひたいの傷で語る父


去年の秋、久々に実家に帰ると父親がおでこに大きな傷をつくっていたことがあった。

父

父は大工をしているので、たまにこんな風に家族を驚かせるような傷をつくって現場から帰ってくることがある。
聞くと、一緒に現場で仕事をしていた人が割と大きい木材を上から落としてしまったらしく、その人の「あ!」という叫び声に父親が反応して上を見上げた瞬間、木材の角がおでこに直撃していたらしい。

おでこは硬くて皮しかないから、見た目の傷ほど出血しなかったと自慢げに話す父。
だいぶ傷が治ってきたらしいが、病院で治療した直後は、その縫い目はムカデがおでこに張り付いてるようだったと母は例える。

しかも、ハロウィンで世間が仮装で賑やかになっているというこの時期に、この傷。
こんな容姿で構わずコンビニに行ったというが、催しの一環としてこういうメイクを楽しんで自発的にやっているのか、それともマジなヤクザなのか、
さぞかし店員さんに探られるような目で接客されたに違いない。

なんというか、私はその傷を見て驚いたのはもちろんだけど、その容姿が滑稽すぎて笑ってしまった。 「海賊かヤクザにしか見えんわ」と突っ込んだ私。

父はお酒を飲みながら、さも大工としての勲章を手に入れたかのようにニヤニヤ笑っている。

その時に、何かこれまでの父と私との間にあった隔たりが、少し薄らいだ気がした。

今は、父と普通に会話ができているかと聞かれると、正直まだざっくばらんに打ち解けられていない。 照れなのか、お互い頑固者同士だからなのか。

弱音は吐かない

父は、仕事で「若い連中が全然使いものにならない」とか、そう言う愚痴を家で言うことはあっても、「しんどい」「辞めたい」「仕事行きたくない」といった類の言葉は、今まで一度も聞いたことがない。

今回のように、おでこに大きな傷をつくってきた時や、木の節みたいに太い指に切り傷や血豆があるのを見ると、 あぁ、この人は命懸けで仕事してるんやろなと、焼酎をすすりながらぼんやり思う。

本当は、色々聞いてみたいことがある。
仕事で辛くなったら、どうしてるのか。大工をもうかれこれ50年以上続けているけど、やめたくなったことは、あるのか。

そういう仕事の話を、これまで面と向かって聞いたことが一度もない。

いつでも聞けるか、と思いながらも、いつなんだろうとぼんやり思う。
聞けないまま、いつか後悔する日が近づいてきてるんやろかと、ぼんやり思う。

アマノジャクな親子


父親から、「お前は、結婚するな」と以前言われたことがある。

「お前は、結婚するなって言われる方が、する気になるやろ」と、お酒で呂律が回らなくなりながらも私に言った。
どんだけアマノジャクなんや、この父親と娘は。

「私が結婚せえへんかったら、父さんに似たせいや
頑固で意地ばっかり張ってるから、彼氏もでけへんねん」って、いつ言ってやろうか。

言えたら色々と、もっと自然に関われるんだろうか。

こないだ、私は32歳の誕生日を迎えた。私は歳を重ねる度に、父親に似てきている。
昔、自分は母親似だと思っていたけど、最近では実家に帰る度にやっぱり自分は父親似なんじゃないだろうかと毎回思う。

お酒が飲めたらご機嫌で、頑固で変に情にもろいところがあって、曲がったことが嫌い。
この辺りは、父もうっすら気付いているかもしれない。

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